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逸話―リースクィアのある朝

魔法使いの大家とされる、リースクィア家。
代々当主は女性であり、また、素質のある義姉妹、養子を迎えて続いている家系である、という話を聞いた。
私も、現在の当主、アリス・リースクィアに義姉妹として迎えられたうちの一人だ。
生きるには犯罪を犯し続けるしかなくて、トチ狂っていた感性を戻してくれたのは、彼女だった。
毎日が心休まる日々で、本を運んだり読んだりするのはかなり堪えるけれど、影に怯える事も無く、暖かい食事も食べられる。
だから、彼女には頭も上がらない。
だけれど。
私は何の素質も無い、唯のローグなのに何でだろうって、いつも思う。


リースクィア家の朝は早い。起床は朝6時。
ふかふかの羽毛枕にもうちょっと頭を埋めていたいが、朝の役割があるから仕方がない。サボると後でクリス姉さんの笑顔が怖い。
長女・アリスは調理、次女・クリスは洗濯、3女・イリーナと4女・エルマは屋敷内の清掃、そして、5女の私は、本の運搬。唯の本の運搬と侮るなかれ。これで角なぐったらヤバそうってくらい分厚い本を、彼女達の寝室から大量に運んで、地下図書館に戻して、さらに予めもらってあるメモに書いてある本を図書館から持ち出して、姉達が座る朝食のテーブルまで運ぶ。この屋敷自体が大きなものだから、持ち切れなくて何往復もすると本当に時間がかかる。確かに、体力は私が一番あるから私が適任なんだろうけども。姉さん達はどんだけ本を読んで、こんなにどこで本を買ったのやら。
あまりに大変だから、ちょっと前、執事とか使用人とか雇わないのかと訊いたら、雇わないという返事が返ってきた。変なの。
最近は段々と慣れてきて、初めは2時間とか平気で掛かっていたものが、1時間とちょっとくらいになった。自分の役目が終わったら、他の人のは手伝わないでテーブルに座っててもいいらしい。せっせと箒を掃いているイリーナ姉さんの隣を挨拶して通り過ぎ、洒落た椅子にどっかり座り、頬杖をつく。
ふと、部屋の中を見まわす。
白いテーブルクロスに白い皿、まだロウソクの刺さってない銀の燭台。天井を見ればシャンデリア、正面を見れば暖かい光が射す窓に幻想的なカーテン、下を見れば、綺麗な刺繍の入った絨毯。本当に存在していたロマンスの風景。相変わらず私には似合わない風景だ。昔は薄暗い、冷たい路地浦だった。
私が居ても、いいのだろうか。
この屋敷に来て3か月が経つけれど、未だにそう思うことがある。
確かに、ここはすごく温かい。けれど、いつか何かの形で高い対価を払わなければいけないんじゃないかって。
……現金だな、私は。
バカらしい考えと少しの自虐で、ふっと笑いが漏れる。
アリス姉さんは慈愛の塊の様な人だ。どこへ行っても何をしても、全く変わらない。お人好しすぎてコロっと騙されそう。とは言え、クリス姉さんが目を光らせてる限りは問題ないと思う。
そう、問題はない。信じるしかない。私はいずれにせよ、もう戻る道はないのだ。
そう自分の脳内で完結させたところで、調理場から良い匂いがすることに気付いた。アリス姉さんが料理を作っているのだろう。
元々、アリス姉さんが全てやっていた朝の仕事を、唯でさえ他に仕事があるのに大変だからと言って役割を分けたのは、クリス姉さんらしい。しかし、アリス姉さんがそれだとやる事がないと頬を膨らませ、平和的な話し合いの末、料理をすることにした。出掛けるまでに2時間も時間があるものだから、凝り性らしいアリス姉さんは5人分の料理をバラバラに作る。そのどれもが丁寧な味付けなものだから恐れ入る。

少しして、調理場の奥からアリス姉さんがやってきた。いつものハイプリーストの服は洗濯に出しているから、黒尽くめの服装にエプロンを着けている。アリス姉さんの私服は、何故かいつも黒い。
「あら残念、杏ちゃんは2番目ね」
くすくすと笑いながらコーヒーとミルクをかちゃりと私の前に置いた。杏ちゃんとは私の愛称だ。母国語でアプリコットという名前だから杏という簡単な理由……そこ、笑うな。
「もう誰か先に食べたのですか?」
「クリスちゃんが。もうちょっと待っててね」
いつもながら何故椅子に座ったことがわかるんだろうと思いつつ、アリス姉さんの背中を見送った。黒いサーキュラースカートがやけに目についた。肌が余計に白く見えて、本当に人形みたい。
ミルクを入れたコーヒーを飲むが、まだ苦い。堪らずテーブルに置いてあった砂糖の瓶を開けるが、砂糖がもう無い。クリス姉さんの仕業か。仕方がないのでミルクを表面張力がかかるまで入れて飲んだ。あの甘党め。
カップを半分ほど飲干した時、屋敷の奥から、もみじやめなさい、という声が聞こえた。エルマ姉さんの声だ。もみじとは、彼女の造ったホムンクルスだ。ゼリーの中に梅を入れてる様な得体の知れない生物(?)だが、言語を理解する等、かなり賢い。まだ掃除をしていたはずだが……。
「ああ、ゴミは食べないでって言ってるのに……」
という声が続けて聞こえた。ゴミを食べていたのか。

私の朝ごはんは、ビーフシチューにオニオンスープ、マカロニサラダ、そしてベーグル。凄く美味しそうだ。……誰だ、朝からヘビーな食事だって言ったやつは。
「他の人はまだみたいですし、私も食べましょう」
「あ、はい」
アリス姉さんも一緒に食べるらしく、銀のサーバーを持ってきた。彼女のメニューは、クロワッサンにカフェオレ……だけ。まるで私が大食いみたいじゃないか。
「あら、朝はたくさん食べた方がよろしくてよ」
姉さん、変なところで私の心を読まないでください。

私は早くもなく遅くもなく、割と普通のペースで食べているのに、アリス姉さんの食事スピードは異様に遅い。とにかく遅い。小さくクロワッサンを千切って口に運んでは、長い時間噛んでいる。こくんと飲み込んだらカフェオレを一口。実にエレガントな仕草だ。見ている間にも手と口を動かしていた結果、姉さんが食べきる前に、明らかに食事量の多い私の方が先に食べ終わってしまった。……だから私は、ああもう。
「ここの生活にはもう馴染んだかしら?」
食器を片付けようとしたら、アリス姉さんが話しかけてきた。
「はい。こんな生活、私がしていいものかと思う位です」
急に心臓が締め付けられる気がした。つい本音が混じった言葉が吐き出される。
「勿論です。私は貴女がいらしてくれてとても嬉しいです」
温かい言葉とは裏腹に、私の失言の所為もあり、私の不安は増大する。
「きょ、恐縮です……」
サーバーを持つ手がぶるぶると震える。
3か月前、とある場所で、ヘマしてチンピラの群れに絡まれて命の危険に晒されている私を助けてくれたのは、アリス姉さんだった。その直後、こう言われたのだ。
「貴女に、とても魔力を感じます」
始めは、はあ? と思った私だけれど、ご飯を御馳走してくれたり、他の姉さん(しかも3人の内2人が義姉妹だと言う)と会って話をしている内に、私は徐々に彼女に興味を持っていった。ある時、私は勇気を出して言ってみた。私を妹として見てくれませんか、と。この現状が嫌だったし、助けてくれた姉さんに何かしたかった。姉さんは、いつもの様に微笑んで頷いてくれた。そこまではよかった。
ただ問題なのが、義姉妹の5女になった後で聞かされた事。リースクィア家は、隠れた魔法の大家だという事。逆に言えば、魔法を扱えなければ、リースクィアに居る資格は無いという事。
「しかし、私には本当に魔力が備わっているのでしょうか……?」
色んな感情が混ざって、つい訊きたかった事と、訊いてはいけない事を口走ってしまった。
対するアリス姉さんは、目を細めて微笑むだけで、何も答えなかった。
 ここにいても、いいのだろうか。
 やはり場違い、場違いな気がする。
 ……何故、姉さんは何も言ってくれないのだろう。
「いえ、何でもないです……」
「食器は私が片付けるから、もう戻ってもいいですよ。御苦労さまです」
「そういうわけにもいきません、姉さん」
無理を言って、食器を片付けにキッチンへ行く。しかし、十秒後には食器を派手に落としてしまって、銀製だから割れることは無かったが、恥ずかしかった。姉さんは私の怪我を心配してくれたけれど問題はなかったから、食器をすぐに片付けて逃げるようにキッチンを離れた。
 
「おっはよう! アリスお姉さーん」
間延びした声が聞こえる。掃除の終わったエルマ姉さんだろう。
「姉さん、おはよう」
イリーナ姉さんも来たようだ。
「あら、二人共、朝食は出来ていますよ」
「はーい!」
「ありがとう」
「……」
何を考えたんだか、いつの間にか私は部屋の外で隠れて盗み聞きをしていた。
「あれ、杏ちゃんはもういないの?」
「ご飯を残さず食べてもう自分の部屋に戻りました」
「あら残念―」
 エルマ姉さんは、言葉の割にあまり気にしてなさそうな声で話しながら、サラダを頬張る。
「……」
イリーナ姉さんがちらりとこちらの方向を見た。少し焦ったが、向き直って黒いパンを千切って食べ始めた。
そして、食べ始めた彼女達の様子を、アリス姉さんは立ちながら微笑んで見ていた。
「えへへ、やっぱりおいしいや」
エルマ姉さんは心底嬉しそうに、今度は程良く焼けた魚を食べている。アリス姉さんは微笑んだまま。そして突然、
「……杏ちゃん、来なよ。寂しいでしょ、そこ」
 イリーナ姉さんがぼそっと呟いた。他の姉さん達がイリーナ姉さんを同時に見て、そして部屋の外、私の方向を見る。
 私は、思わず逃げ出していた。


ずっと気になってたんだけど。
とても気に入ってたんだけど。
姉さん達の様にはいかない。
やっぱり私は要らない。
後ろめたい。
悲しい。
苦しい。
逃げたい。
逃げてばっかり。
いつも逃げてばっかり。
私。
私。


「何してんのよ」
 気づくと、目の前にはクリス姉さんが立っていた。
「いや、あの……」
「何で泣いてんの?」
「いや、別に……」
「別に、じゃないでしょう?」
「何でも無いです」
「そんな顔真っ赤で何でも無いですって言われても説得力の欠片も有りはしないわ」
相変わらず、クリス姉さんは怖い。けれど何故か、今は怒られている方が安心する。私は此処に居るべきではないってことを、はっきり言ってくれる気がして。その方が、安心できる。いっそ正直に今の気持ちを吐露してみよう。そう思った。
「あんたまたどうせ、『此処は私の居場所じゃないから逃げたい』とか思ってるんでしょう?」
 ……姉妹揃って心を読まないでください。
「あんたの顔ほど分かり易いものはないって。本当にローグだったのかね、杏は」
「なりたくてなったわけじゃあないです」
「まぁ、いいわ。一つだけ姉として言っておく」
「何でしょう?」
 クリス姉さんがとどめの言葉を刺してくれるなら、それはそれで構わない。私は受け入れようと思った。しかし、クリス姉さんが言った言葉は、
「此処に来たなら楽しみなさい。魔法とか考えなくてもいい」
「……!」
いつもは怖いクリス姉さんが、そんな事を言うとは思わなかった。私が居る事を認めてくれるなんて。
「荷物持ちや、本の整理だけで十分助かるわ」
ごめん。優しいと思った私が馬鹿だった。
「それは冗談として」
どっちなのよ。
「その内、魔法なんて覚えるでしょう」
「でも、私は……」
「ああもう、泣き事を言ってる暇があったら、魔法の一つや二つでも覚える練習をしたらどうなの」
全く正論。けれど私は、魔法を見様見真似で複製しても、ロクに使いこなせはしない。
「は、はい……」
「さあ、さっさと行きなさい」
そう言うなり、踵を返すクリス姉さん。そして私は気付いた。
「クリス姉さん」
あれは、クリス姉さんなりの気遣いだったのだろう。
「私、がんばります」
そう言わずにはいられなかった。クリス姉さんは振り返らずに歩いて行ったが、表情は見えないのにどうしてか、彼女が笑っているように感じた。


気付くと私は、またあの広いキッチンへ戻っていた。
私の視線の先にはアリス姉さん。丁度私の皿を洗っている。
「アリス姉さん」
私の声に気づいて、アリス姉さんは手を止めて、こちらを見る。
「あら、杏ちゃん。どうしたの?」
相変わらずの姉さんの微笑みに何も言えなくなりそうになる。何でも無いですって言いたくなる。その顔を曇らせたくないもの。
 でも、……言わなくてはいけないよね。
「私、3か月練習して、魔法使える様にがんばったけど、出来ませんでした」
姉さんは微笑んだままだけれど、視線を少し下に落とした。でも、私の口は止まらない。
「けれど、私、これからもがんばります。もっとがんばります。あんな事言ってごめんなさい。姉さんを信じようとしないでごめんなさい。だから、申し訳ないですけども、もう暫くここに」
「杏ちゃん」
アリス姉さんが言葉を遮って、私の口はやっと止まった。
「……はい」
姉さんは言葉を考えているようで、一瞬沈黙した。
その一瞬が、私には怖かった。
「貴女は貴女です。急ぐ必要もないんです」
「……」
「そして、私達は姉妹です。姉妹は助け合うものです。かけがえのないものなんです。信じる信じないなんて、私は考えた事もありません。貴女もクリスちゃんもイリーナちゃんもエルマちゃんも、皆可愛くて仕方がないんです」
「……」
「だから、自分は要らないんじゃないかとか、思わないでくださいね。恐らく、私が昔言ったリースクィアの家系の起因が原因なんじゃないかと思いますけども、それだけじゃないんですよ、リースクィア(私達)は」
気付くと、私は涙を流していた。涙を拭っても拭っても、止まらない。
「……やだなぁ。私の考えてる事、ばればれじゃないですか」
アリス姉さんは、そんな私を優しく抱いてくれた。一応歳同じなのに、まるで私が子供みたい、なんて思ってしまったけれど、それでも姉さんの体温が温かかった。
「これからも、私達と共に居てくださいね」
「……はい……」
すごく涙声になってしまった。
 そんな私だから、照れ隠しに、今更言い忘れてた事を言う。
「ね、姉さん」
「何でしょう?」
「ご飯美味しかったです。ごちそうさまでした」
当たり前だが一瞬呆然としたアリス姉さんだったけれど、少ししたらまたいつもの笑顔に戻った。
「どういたしまして」




そうして私は、私が要らないなんて思わない様にした。
 私は、姉さん達の誇りになるように、それからは沢山の書物を読んで、沢山魔法の練習をした。時々姉さん達が手伝ってくれたけれど、やっぱり上手くなる事は無かった。
 そうして、アリス姉さんの3か月前の言葉の真意は、あの日へと繋がっていく事になる。



――――――――


リースクィア家のある日の朝の話です。
血が繋がっていないからこその絆ってのも、あるんじゃないかと思うんです。
って、ラグナロク度が0な気もしますけども。
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プロフィール

まえざきとわ

Author:まえざきとわ
ものかき的ななにか。
何だか今日も生きてます。



当ブログ内における「ラグナロクオンライン」に関する全てのコンテンツの著作権につきましては、運営元であるガンホー・オンライン・エンターテイメント株式会社と、開発元である株式会社グラヴィティ並びに原作者であるリー・ミョンジン氏に帰属します。
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